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※ルビはカッコ表記です。ご了承ください。
 

THE BLANK TRACK
by
Taki Sara
Copyright © 2007-2014
 by
Taki Sara



   23


 心地の悪い朝だった。
 沈みすぎるマットレスが、汗ばんだ身体の半分以上を覆っていた。頭を起こして悶えると、ひやりと滑らかな肌触りをした何かが爪先に触れた。目をやると、繻子の掛け布団が、逃げる猫のように床へと落ちた。床からわたしの下半身にかけて、朱い格子に嵌った硝子窓から陽射しが入り、熱した碁盤の目を作っている。身体は、グリルの上で炙られているようだ。
 床から布を拾うと、グリルで埃が暴れた。不満げな埃が、まだ堆く周囲に積もっている。どうやら一見するところ、この部屋では床に揃えたわたしの靴が最も身綺麗なようだった。
 誰の部屋であるかは、昨晩のうちから見当はついていた。梁道一の部屋に違いないのだ。
 わたしは、一度水を含んで腫れ、乾いて固くなった靴に爪先だけを捻じり入れた。ささくれ立っている床板を素足で慰めてやろうと思うほど、寝惚けても酔ってもいなかった。そもそも、書物を除いてベッド一式以外に何もないこの部屋では、床板だけがわたしを敵視しているに過ぎない。何しろドストエフスキーの著書はあっても、書架すらないのだから。
 外へ出ようとして、流線型でやけに飾り気のないドアノブに手をかけた時、下着一枚と靴しか身につけていない自分の身形に気がついた。ベッドへ戻り、繻子の布を一枚肩から掛けた。これでもう気分はアリストテレスだ。キケロでも、プロタゴラスでも良い。しかし誰かが枕の横にボタンダウンのワイシャツとサマーウールのトラウザーズを用意してくれていた。よって、ジョージ・ワシントンでも構わないこととした。
 衣類はどれも窮屈だったので、梁道一のものなのだろうと憶測しながら、部屋を出た。
 そこは百年前の面影が残る風景だった。白い漆喰の壁に仕切られた廊下が、左手へ薄っすらと射す光の道標と共に伸びており、突き当りには大きな観音扉が見えた。その観音扉へ行くまでの途中に、わたしの今し方閉めた扉と同列にして、二つの扉と、下っていく螺旋階段があった。螺旋階段の下では、壁掛け時計らしき鐘の音が、頭痛がするほどの煩わしさで鳴っていた。わたしはその音に誘われるように、怖いもの見たさともとれるような心境で、階下へ向かった。
 一階に下りると、正面は木製の調度が整う居間だった。
 整っているといっても、老人の介護に追われる生活の爪痕は隠しようがなく、また隠そうとする意志すらも感じられなかった。
 時計の掛かる壁の中央に、火のない暖炉があり、脇に古ぼけたわたしの上衣が吊るしてあった。
 その生乾きになった上衣の内ポケットを探っていると、隣の暖炉の中から、風に吹かれて真新しい紙屑の煤が転がり出てきた。紙屑の煤が脛にぶつかったとき、梁道一の手紙を入れた封筒の角が手先に触れた。冷たい汗が出る寸でのところであった。
「だれ?」
 その直後背後で依頼人の声がした。訛りと声質で、もはや憶測はついたが、寝起きの心臓には負担が続いたことに違いはない。
 わたしは封筒をトラウザーズのポケットに落とし込んだ。
「僕ですよ」
 一生をかけても答えの出ないであろう問いを不意に訊かれて、言葉に窮した結果意味にならないことを言った。
「普段からこんなに目覚めが早いのかしら」
 疑っているわけでもないが、昨晩の大事までも忘れたとでもいうような調子だった。
「そう早い時刻で?」
 先ほど二階まで聞こえる鐘の音を立てていた壁掛け時計は、屁っ放り腰な“く”の字で五時を報せた直後だった。念のために、そこで現地の時刻にあわせて腕時計の針を一周逆巻にした。
「昨夜、ベッドに入った時間にしては」
 彼女は言うと、卓とセットになった椅子に腰を乗せた。椅子の背もたれが、彼女の跳ねた頭髪よりもさらに高く波のように伸びていた。
「なぜ、あんなことを?」と、わたしは上衣を日当に放り、彼女の向かいに座った。トラウザーズが、腿一杯に突っ張った。
「事件との関係性を抜きにして、知りたいですね」
 先を読んで、念を押すのも怠らなかった。
「昨晩のこと? 私はあなたがこんなところまでやって来たことにむしろ驚いているわ。はっきり覚えているわけではないけど、あなた以外にも人がいたわね」
 非難の視線を向けながら、景徳鎮らしき茶器を手繰り、いつからあるのかも分からぬ残り物の茶を飲んだ。わたしも一杯頂くことにした。茶は、一晩中置いてあったに違いない。想い出のように苦く、人肌のぬるさにまで冷めた中国紅茶だった。紅茶にしたって、丁玲にしたって、そうなるのは本望ではないはずだ。
「なぜここへ来たのかは、追々話すことになりましょう。しかしそれにしたって、昨晩はいったいどうしたというのか、案じることも許されませんか」
「そもそも案じてもらう必要がないのよ。ただお礼くらいは言わなくては失礼かもしれないわね」
「礼はまだとっておいてもらって結構ですよ。どこに収納ったか、忘れてしまわない程度に。僕だって、まだこの今着ている衣類の礼を言っていない」
「服のことは気にしないでいいわ。だからそう気分を害さないで」
「どんな人間であっても救うことに損はないものだと信じていますよ」
「信じるのは自由だけど、助けた相手はあなたの子供ではないのよ。何でも言うことは聞けないわ」
「横浜の中華街では、伏羲もあなたに似たようなことを言いました」
「またその話をぶり返そうというのなら帰って頂戴。この家から消えるか、黙っているか、せめてどちらかにして。あなたが、犯人も道一も克昌も連れて来られないでいること、忘れたとは言わせないわ」
 ひとくさりに言い終えると、卓を引っ掻き掴むようにして彼女は立ち上がった。
 すると今度は何処かで金属めいた音が弾けるように鳴った。茶器同士が触れた音にも聞こえたが、また直ぐに、食事を求める赤子のごとく続けて鳴った。
「こんな時間に?」
「来客ですか」
「客と呼ぶ必要はないわ」
 丁玲は、ルームシューズの軟な足音を隣の部屋へと滑らせた。その先にはバスルームがあった。乱れた髪をすっかり整えた彼女が戻って来るまでの間、金属めいた呼び鈴は鳴り続けていた。
 丁玲が玄関口を押し開くにつれ、朝陽の筋が部屋の中で肥えていった。
 軒先には、首回りと脇の下に迷彩さながらの汗染みを作った、小太りの中年がいた。背後に見える黒いセダンは、アイドリングのままで、手つかずのジャスミン畑に汚らしく轍を擦りつけていた。
 男は、今時珍しい分厚いレンズの眼鏡をぞんざいに扱いながら、涙袋の辺りに浮き出ている汗を素手で強引に拭いまわした。濡れたままのその手で、黒革のトランクケースを持ち上げると、顎を突き出して厳つい歯並びを見せた。
 丁玲は、髪を整えた割には不愉快そうに何事かを中国語で発した。男は気色ばんで「トイブチ」と二度ばかり拝んだ。それに対して丁玲は長い返答をした。どうやら、用件はあるが今は困るといったもののように推測できた。
 小太りの男は悩んだ末、アタッシュケースからマニラ封筒を引っ張り出し、それを丁重に授けるとサインを願うような仕草をした。しかし仕草が終わらぬうちに、扉は閉じられた。それが丁玲の答えだった。ただし、彼女の手元にはマニラ封筒が残っていた。
 丁玲が居間に戻って来ると、守永が階段を下りてきた。
 わたしは立ち上がり守永の傍へ行き、朝の挨拶を交わした。
「日本の警察です」と、それから丁玲に紹介した。この場で訪ねてきた男の正体を訊ねるのは野暮というより他にない。
「昨晩、湖から揚げたあなたを介抱してくれたのは彼女ですよ」
 紹介を受けて、守永が勿体ない程に健やかな笑顔で会釈した。
「お礼を言います」と、丁玲も、もはやわたしに見せることがなくなった微笑みを返しながら、手にしているマニラ封筒をガラス戸棚に収めた。
「まさか昨晩、あんな時に皆さんのような来客があるとは思いもよりませんでした」
 その丁玲の発言は、飛び降り自殺者が最後に自分の靴を揃える類のもののように聞こえた。
「来客だなんて」と、守永が丁玲の両肩を静かに抱いた。
「もっとご自身のことを考えてもいいのではないでしょうか」
「いいのですよ。お部屋の用意をさせて頂戴。あなた女性なのに、一晩辛かったのではないですか」
「そんな固いこと、気にしないでください。部屋は世帯主の許可もあって、借用願も出さずに既に居候させてもらっていますから」
 どうにも固い発言だった。
「もう、お父様に会っているのですか」
「隣町からここまで、車に乗せていただきました」
「コテツもなの?」
 丁玲が目を一杯に開いて振り返った。そんなに驚く理由は見当たらなかった。
「生憎で」
 わたしの意識に、それ以外に言葉は浮かばなかった。
「他にも人が?」
「伏羲、いや――韋代英と言った方がいいでしょうか」
「まさか?」
 わたしは黙って二階を指した。
「お父様は、なんて?」
「気付かなかったようですね。彼が韋代英だとは」
「運転手とは何か話した?」
「運転手?」
「何でもないわ」
 彼女は言い捨て、ローブの裾を持ち上げながら階段を上がり始めた。
「どうしたとういうのですか?」
「兄さんに事情を聞くに決まっているでしょう。全て、お父様に知らせておかないと」
「誰が望むのですか。今更そんなことを」
 彼女の足取りが止んだ。振り返り、喉もとまで出かけた品がないであろう塊を苦労して飲み込んだ。俯いたまま発散されなかった力を足裏に宿して、一気に背を向けると力一杯に螺旋階段を駆け上り始めた。
「やっぱり、ずうずうしかったのですよ」
 丁玲の姿が消えると、守永は独り言のように零した。謝罪も許されなかった悩みから来る狼狽を解消するためか、日当に投げ出したままになっているわたしの上衣を拾って、朱いバルコニーへ干しに出ていった。わたしはその背中に返答してやった。
「僕の依頼人は普段からあんな調子さ。ただ一方で、僕の今着ている衣類を用意してくれたのも彼女なんだ。本当は悪い人間じゃない。今は取り付く島もないがね」
「もしかして、梁道一の手紙を読ませたのですか? それで気分を害されて?」
「いやそれはまだだ。可能なら頭領の前で、丁玲自身に読んでもらえないかとさえ、考えている」
「それで、この絡んで解ける見込みもないような事件に、変化があるのであれば……」
 わたしも朱いバルコニーへ入った。
 日射しは強く、日本の港町にも負けない眩しさだった。
 バルコニーの脚下直ぐから、見える限りの丘の先まで、緑と熱気が隊列を成し、景色はたわんで見える。
 その緩やかな弧を描く視界の片隅では、桟橋に沿って小舟が浮いていたが、周囲の湖面が蓮に覆われているため、座礁しているような光景だった。どうやら、船を座礁や嵐から守った媽祖と呼ばれる中国の女神は、この邸にはいないようである。
 ここには波の音も蝉の声もない。わたしはそんな夏があることを、知らなかった。
「証拠を揃えて犯人を挙げれば済む類の事件ではないからね」
「前にも確か、追うのを止めようと思えば、いつでも止められたと、言っていましたね」
「頭領の前で、道一の手紙を丁玲に読ませる際には、君もそこにいてほしい。君を連れ来た意味もはっきりするだろう」
「弱すぎて周囲の人をイライラさせてしまうような人間でも?」
「君にしかできないと、僕は思うね」
「逃げ出すかもしれませんよ」
「事件の全容を知ろうという日本の警察官は、もう君しかいないのだよ」
「知っています」
 わたしは、彼女の赤い帽子を指差し、次いで握りこぶしで鼓舞すると、バルコニーを後にした。

 居間を抜け螺旋階段を上がる手前で、気がかりだった二つの事実に育まれるようにして、好奇心の芽が次第に大きくなり、剪定が追いつかなくなった。
 その内の一つ目は、先ほど丁玲が仕舞い込んだマニラ封筒だった。
 棚まで引き返し、ガラス戸を引いて革製のマニラ封筒を手に取った。辞典よりも重く、執拗なまでに固く麻紐で結び閉じられていた。
 指を痛めながら麻紐を解いて、封筒を逆さにすると、製本された一綴りの契約書が六冊も滑り出てきた。
 正確な詳細は解りかねるが、どうやら土地の売買を巡るものらしく、“有限公司綜合發展”という法人が董家頭領に契約を申し入れているらしいことが漢字の並びから見当がついた。売買対象となる地番の列挙だけで、二十ページ以上もある。それぞれの契約書によって、対象となる地番が異なった。契約書は三種類あり、それぞれが二組ずつで計六冊である。全て袋綴じが済まされ、あとは頭領の署名を待つばかりだ。
 わたしは手帳に、土地の一部と、契約者の名を控え、マニラ封筒を裏面にひっくり返した。“蘇州市国土交通局五区四市循環道計劃室”と、焼印が施されている。それも記録すると、丁寧にもとに戻した。
 その様子を、屋外から守永が見ていたようで、居間へ戻って来た。そしてわたしから目を離さぬまま、顎から滴る汗を掬い拭いて、キッチンで蛇口をまわしはじめた。
「新発見でも?」
 言葉と同時に、蛇口から勢いよく山間の冷たい湧き水が飛沫いた。
「遺産相続と運用の契約書のようだ。役に立つか知りたければ他の人に聞いてくれ」
 守永は、桶で渦を巻く水面を指先で弾いた。胸中で現実が良心と鬩ぎあうのは、彼女の人生において常だった。気分でも変えようと試みたのか、蛇口から手のひらに水を受けて口許に近づけた。
「生水のまま胃に入れるのは感心しないね」
 わたしの忠告に対して、その湧き水に溶け出している石灰みたいな笑みが返ってきた。
 わたし達はガスコンロ探し、鉄瓶に水を満たして火にかけた。鉄瓶に刻まれた三国志演義に登場する人物達が火を浴びてさっと曇った。
 湯が沸くのを待つ間、気がかりとなっていた二つ目について、守永に意見を求めることにした。
「こうして料理をするのならばガスコンロがある。この季節に暖をとろうとする者もいない。上衣は外に吊しておけば乾く」
「なぞなぞですか」
「昨晩、僕と丁玲が湖から這い出した後、今はバルコニーで干してある上衣はソファーにかけておいた。その他は洗濯機の中だ」
「その上衣が、今朝は違う場所にあったのですか」
「深夜に誰かが、暖炉の脇にわざわざ動かした。君じゃないなら、丁玲だろう」
「なんのために?」
「不自然だと思ったのじゃないか。何の目的もなく、この季節に暖炉を使った形跡が残っているなんて」
 わたしは、煉瓦を積んだ炉の内に、火かき棒を突っ込んで、冬場から僅かに残っていた木炭を退けた。奥で、風に遊ばれるようにはためいている煤を慎重にたぐり寄せ、手のひらに乗せた。
「それを燃やすために火を点けたというのが、本当のところですか」
「誤魔化すために、上衣を吊して、干しているように場を設えたのだろう」
「彼女を疑うようなことを言いたくはありませんが、まさか梁道一の手紙が……」
 わたしは、両手で一山にもなる煤を、磁器の皿に落とし、トラウザーズから梁道一の手紙を入れた封筒を出してその中身は卓上に広げた。
「こっちが手紙ですか」と、守永は胸をなで下ろし、ためつすがめつ、赤子をあやすような手つきで手紙を日に晒した。
「よかった。水に浸かったのに、まだ文字もきちんと読めますよ」
「良質の紙とインクが幸いした」
「ではそうなると、その煤の正体は一体?」
「僕もたった今、間近で見たばかりだ」
「暖炉で燃やして処分する必要に迫られたものだったのでしょうか」
「ただの紙だ。ガスコンロでだって燃えそうなものだ」
「あまりにも漠然としていて、私にはなんだかもう……」
「穿って考える必要はないだろう。昨夜丁玲は、暖炉でコイツを燃やした。その後、湖に身を投げたところを僕たちに救われた。皆が寝静まった後、僕たちにコイツを燃やしたことを知れたらまずいと思い、上衣を動かした」
「隠したりするのであれば、その時にきちんと煤を処分すればよかったのに」
「したさ。ただまさか僕たちがやって来るとも思わなかったのだろう。火かき棒で奥に押し込んだ程度の処理しかしなかった。結果、開け放しの煙突から風が吹き込んで一部が戻ってきた」
 守永は、さながら白旗でも振るようにして梁道一の手紙を返して寄越した。中を読ませて欲しいとせがんだりはしなかった。
「紙、といっても、綴ってあったようですね」
 確かにその通りだった。綴り紐の真鍮が、焦げて鈍色に照っていた。角の揃った燃え屑が、煉瓦造りの廃屋みたいに崩れた。
「これではどのみち何が書いてあったかは、読めないな」
 わたしは、生焼けの束を選んで摘まみ上げた。それにも関わらず、焼きたてのパイ生地よりもあっけなく型が紛壊した。
「遺書、でしょうか」と、守永は訊いた。
「他に検討はつきませんし」
「さっきのような契約書ならば、相手方に控えが残る以上、燃やしたり偽装したりする意味はないだろう。遺書の可能性もあるが、そうだとしても目的が解らない」
「理解に窮しますね」
 わたしは、梁道一の手紙を剥き出しのままトラウザーズに仕舞い、手紙を収めていた封筒の中には、手の腹で掻き集めた煤の束を残りなく落とし入れた。
「そろそろ伏羲と話をつけた丁玲が降りてくるかもしれない」
「どうするのです?」
「僕はもう一度、梁道一の部屋をゆっくり見たい」
「では、あとは私が片付けておきます。丁玲さんが下りてきたら、朝食の用意をしましょう」
「その時、この療養所にいる全員に声をかけてもらえないだろうか。食卓に一様に顔を揃えることはなかろうが、腹が減れば皆顔を見せるだろう。頭領には僕から声をかけておく」
「手紙を読むのですね?」
「そういうことだ。頭領の部屋で、待っているよ」
 わたし達の間で、先ほど火にかけた鉄瓶がくつくつと音を立て始めた。守永が火を止めに走った。それを見て、わたしは二階へあがりはじめた。

 螺旋階段を上がりきってすぐ右手の観音開きの扉には、厳重に南京錠までかけられていた。頭領の部屋に間違いないだろうと当たりをつけながら、梁道一の部屋へ戻る際、中国語のかなり激昂した丁玲の声音が聞こえた。しかし、そちらは棚上げするより他なく、そのまま目的となる部屋のドアノブに手をかけた。ドアノブは、外側から見ると龍の頭を模した造りになっており、内側の飾り気のなさとは対照的だった。
 建付が悪いのか、ドアを引いた途端、風の抜ける音が鋭く走ったかと思うと、閉め切っているはずの部屋とは思えぬほど簡単にするりと開いた。
 部屋の造りは家の造りの延長で精巧なものだった。
 わたしは白い漆喰に沿って中を一周し、寝床一式と本以外には何もないのを再確認した。朱い窓枠も、頑丈に設えてある。頑丈すぎるといっても、差し支えのないものだった。筆舌に尽くしがたい外の景色を目前にしながら、窓を開けることすらできなかった。
 梁道一はもしかしたら、泡のような雪のしんしんと降り積もる平野を眺めながら、暗がりの部屋で蝋燭の炎を頼りに、一文字数ルーブルの原稿に筆をはしらせるドストエフスキーと、自分を重ねたのかも知れない。
 邸の中は満ち足りているのに、どうしてか梁道一は不相応な不自由をしていたように見えた。生きながらえるために、かつて街中ではジャスミンの腕輪を売っていたが、この邸では魂でも売っていたのかもしれない。わたしは息苦しくなり、再び部屋を出ざるを得なかった。
 ただ、そんな中でも違和感が残った。廊下へ出てから、今度はもう一度力強くドアを引いた。
 やはり、蟻一匹と逃がしそうにないこの密閉された部屋のどこかで風が抜けていた。
 もう一度、壁に手を触れながら部屋を一周した。すると壁と床の境に、石膏のような白い固まりで封じられた、拳ほどの裂け口を見つけた。
 石膏のような白い固まりは、壁に接合しておらず、ただ裂け目にぴたりとはめ込まれている。手で穿り除けると、腐敗臭が鼻を突いた。思わず後ずさりし、手に収まったその固まりを強く握りしめた程だった。固まりは泥細工みたいに崩れて指の間から抜けていった。石膏ではなく、ただの工作用の紙粘土だったのだ。
 わたしは身を屈め、異臭の正体を確かめるべく裂け口を覗いた。
 扇状に広がった穴の奥に、白骨化した小動物の亡骸があった。小さなジャスミンの花々が、手向けられたままの姿で風化している。
 さらに奥には、シガーケースに似た籐籠が供えてあった。
 わたしは思い切って腕を差し入れた。腕が抜けなくなる不安と鼻に塗り込まれた異臭とが、喉仏で球技をはじめた。
 籐籠をつまんで一息に引っ張り出し、埃を払い除けて陽射しに晒すと、どうやらそれは玩具箱のようだった。
 ただし、これはさながら棺だった。蓋を上げると、手向けられたジャスミンの花々の中で玩具が眠っていた。わたしは、木乃伊取りの学者の気持ちを理解するのは難しそうだと思いながら、籠をひっくり返した。ノート、絵本、未完成のジグソーパズル、針の止まった懐中時計が、一辺に八方に弾け落ちた。
 まず手始めに、ノートに目をつけて手繰り寄せ、開いた。
 最初の頁の一行目から最後の頁の最終行まで、一心の乱れのないままに、一切の隙間もなく“愛”という文字が角張った字体で書き固めてあった。それも、幼子の筆跡であった。
 何年も前に、わたしの雇ったアルバイトの事務員が、いつもこんな調子で書類を仕上げてきたのが思い出された。その事務員は、単調な仕事が好きでそれ以外は苦痛で仕方ないといった。事務員は、四日目から姿を見せなくなった。
 次は絵本に目星をつけ、その物語を追ってみた。中身は『イワンの馬鹿』だった。梁道一のロシアへの敬愛はもう充分だ。
 そこからさらにジグソーパズルを完成させるには、虫に骨を食われでもした今の気分では大変な重労働に思えたので、丁重に辞退を申し入れた。そもそも完成図柄の判別は、今ある欠片だけではどうにもできない。明らかにピースが不足しているのだ。懐中時計も、得意な仕掛けなど施しようのない子供用の偽物だった。
 全てを籐籠に戻す手前、底に敷いてあった布をまくった。底から子供用の下着と、山と積めるほどの爪が出てきた。
 異臭の原因は、動物の亡骸だけでなく、その下着にもあった。
 わたしは出てきたガラクタをひとつひとつ籐籠に投げ入れて、布で覆った。この布は、カビの斑点だらけのブランケットだった。
 片付け終えると、ベッドに腰掛け、独房のように見えてきたこの部屋を睨んだ。
 今朝のわたしは、この部屋の明るい部分にばかり目を向けすぎた。目だけでなく、心までも偏見に満ちていた。ようやく順応し、見方が分かりはじめた。
 目をこらすと、梁道一がここで生きた跡がはっきりと浮かび上がってきた。
 陽射しの届かない床は、寝小便で板が脱色されていた。窓枠の材木には、今でこそ木目に馴染んでしまったものの、意図的に彫った傷が天井と水平に幾つも並び、梁道一の成長記録を刻んでいた。動線となる床板は、確かにたわんでいる。
 アフォーダンス理論だった。外側と内側でまるで違う形状のドアノブにも説明がついた。
 梁道一の度重なる行動の結果として、この部屋は結実していた。ドアノブは、内側からだけ握り倒されること幾万回といったところなのかもしれない。
 わたしは、その梁道一の生きた証を手のひらに感じ、部屋を出た。
 出たところで丁度、昨日の運転手らしき人物が、水差しを片手に頭領の部屋へ入っていくのが見えた。伏羲と丁玲と守永の声が、後ろ姿を追うように階段を上ってきた。どうやら丁玲と伏羲はいつの間にか一階へ下りていたようである。
 わたしは運転手に続いて、鍵が施錠されぬうちに、頭領の部屋の扉を引いた。

 身振りだけで答える運転手から部屋に入る許可を得て、わたしは一階にいる三人が姿を見せるまでの間は看病の様子を見守っていた。
 ところがやがて、運転手の不慣れで素人紛いの手つきが露わになるにつれ、目にするのにすら耐えかねてしまい、結局手伝うことに決めた。幸い、寝床には水練にも紛うほどの優美な幕が下りているため、眠っている患者が目を覚ましても、突然驚かせてしまうことはなかった。
 わたしは、運転手から身振りで指示されたとおりに、薬品棚の脇から、細い管の伸びる加湿器をサイドボードに移動した。
「あなたが陸ですか」
 その機会に、それとなく運転手に言葉を投げてみた。
 期待はしていなかったものの、案の定返ってきたのは、土色に焼けた頬に刻まれた当惑気な笑い皺と、亀の甲みたいなレンズの疑わしげな明かりだけだった。ストールはつけていないが、白髪がほぼ独占する長髪のせいで印象に大差はない。
 わたしの作った微笑が、余程乾いていたのかもしれない。寝床の幕が僅かに波打ち、頭領の咽せるような声がその向こうから聞こえた。
 すぐに運転手が身体を強張らせた。硬直した指先で、滝を裂くようにして幕を上げると、繭型に膨らんだキングサイズのリクライニングベッドが姿を見せた。
 わたしは、こんもりとした羽毛布団を払い除けて、上質のポケットコイルに沈んだまま病臥する頭領の上半身を抱え起こした。その身体はゴロタ石のようなのに、払い除けた羽毛布団よりも軽かった。身体を胸元とまで引き寄せると、枷と区別がつかぬ頭がだらりと枕に転がった。
 するとどうしてか、わたし自身、泣くことを喜び噛みしめる赤子を、たった今抱き上げたばかりの産婆になったような錯覚がした。
 肩を叩かれて振り返ると、緑色の管が伸びている機械を片手に、運転手が交代を促した。運転手は手にした管を口に差し込み、柔らかいものでも混ぜるような音を立てて、血痰を吸い出した。それから今度は、蒸気の出る白い管を、粉が吹く口の端に乗せて、頭領を横たえた。
 暫く頭領の剥き出しになった肋骨が強く上下していた。
 やがて彼の瞼が持ち上がった。涙が一筋、こめかみを走った。運転手が、袖口でそれを拭い、先ほどと同じ要領で痰を取った。
「探偵殿か」と、頭領は、寝癖でぺしゃんこの頭髪をわなわなと触った。乾いた皮膚が剥がれて散った。
「昨日と、変わらぬ顔をしておるな」
「同じ人間なので」
「儂の顔は、日増しに別人になる。せめて、克昌がいればな」
「それはそうですが、医者はどうしたのでしょうか」
「午後から来る予定にはなっておるが充てにならん。医者はとうに諦めたに違いない。それどころか、整体師も鍼灸師も、気功師、祈祷師でさえもな」、
 頭領の勢いが勝り、口の端から管が落ちて麻のシーツを濡らした。青白い肌にも、滴が染みこんだ。そこに走る静脈が飲み干したとでもいうようだった。
 運転手が、生き物でも捕らえるみたいにして管を整え、医療用テープで補強した。
「僕は、貴方の昨日の顔を知りませんよ」
「見せたくもない」
「だから、車の荷台にマジックミラーを?」
「病人を見る視線に殺されとうない」
「殺される?」
「そうじゃ」と、老人の落ち窪んだ、作り物みたいな眼球が零れ落ちそうな早さでわたしに向いた。
「儂の質問に、答えてくれ」
「内容によりますね」
「簡単な質問じゃ。悪意はない」
「構いませんよ」
「もし仮に、探偵殿の腹が痛むとする。探偵殿ならば、どうするじゃろう」
「薬を飲むでしょうね。それから、休養も大切だ」
「何の薬を飲むつもりじゃ?」
「原因となる病を根治するようなものです。痛み止めでは、あまり意味がない」
「では、原因の特定が先じゃな」
「西洋医学に準じれば」
「原因が不明な場合はどうする?」
「東洋医学か、あるいはさらなる調査を」
「いつまでも見つからないとすれば、どうじゃろう? 次の痛みが、いつやって来るのかも分からない。対処の仕方も分からない」
「四六時中、病について考えることになりますね」
「家族は、探偵殿をどう見るじゃろう」
「家族はいませんが、労ってくれる家族が理想ですね」
「しかし、それでは病の原因は分からず終いじゃな。探偵殿の身体には、現代の医学では明確に解明できない病状が続く」
「一生このままか、死に至らないか。同じような事例がないか、調べるより他、なさそうです」
「心が病に犯されていくとはそういうことじゃ。身体よりも心が、心よりも思考が、思考よりも感情が、病に捕らわれる。そしてさらに、病なしには、何も判断できなくなる」
 わたしは頷くより他になかった。
「病は悪そのものじゃ。人の心よりも、どんな兵器よりも、巨大な悪じゃ。儂の病は、謎の多い病だ」
 頭領の視線がわたしから離れた。その先のサイドボードに、枕よりも一回り大きな写真が立ててある。
「身も心も、儂の治癒力では限度がある」と、頭領は麻のシーツの上でずるずると腕を操った。
「身体はもう医者に任せきりじゃ。しかし心は、家族と共にあるのが理想だと感じるようになった。旅の仲間は多いに越したことはない。儂は今病と共に生きているが、病と共に死ぬ。忍び込む心の病から、唯一救ってくれるのは、心の許せる者だけじゃ。探偵殿の一行も、旅の仲間じゃ」
 節くれ立った指が、写真を目指して這いつくばった。何年か前の一瞬を解説しようとしたが、途中で力尽きた。
「丁玲も、克昌も、甘やかしすぎた」と、指の行方を声が補った。
「逞しく育ったのは、代英と、道一と、庭に咲いたジャスミンの花だけじゃ。儂は何も与えなかった。それが結果としてよかった。けれども、どちらにせよ、今ここに、儂の当時愛した者達は、当時の心のままでは、誰一人としていない」
 写真の中では、頭領夫婦を縁取る形で、親族だろう者達が睦まじげにしていた。
 中央で車椅子に鎮座する頭領の膝に乗った、思春期の少女が胸元で手を結びながら夢中でお喋りに興じている。その隣では、痩せぎすの青年が、がむしゃらに母親らしき女の腕を引っ張り、いっぱいに伸ばした指で何かを差していた。しかしそのせいで、女性のスリッポンが脱げて芝の上を転がり、二人は腕を取り合ったまま別々の方向に動き出していた。その二人を危なっかしそうに見つめる、馬面の勇ましい青年は、頭領の車椅子を背部で支えていた。頭領は、その青年の逞しさに安堵しているようだった。その他に大勢の知らない女中や給仕達がいた。彼らの背後では、この療養所が、両手一杯に皆を抱擁するように、蒼天の下で広がっていた。
「この写真は、引き延ばした際に、端を切り取ったのですか」
 わたしが訊くと、頭領は唇の端で管を弄んでいるだけで答えなかった。
「男の子がいますね。写真の端で、輪からはずれている。しかも、半分以上写っていない」
 後背部のフレームアウトした少年は、直立したまま、集団を眺めていた。さらに詳しくいえば、丁玲だけを、主を待つ犬のような瞳で見つめていた。
「茶を、探偵殿に」と、頭領は運転手に言った。
「ラプサンスーチョンという。スモークした紅茶じゃ。スコッチの代わりになる。人生、一杯の紅茶に救われることもあるものだ」
「いただきましょう。こっちのビールよりはずっといい」
「いつの時代の話をしとるんだ」
「変わらないから言ったんですよ。それはそうと、その男の子に関する質問にも答えていただきたいものです」
「なぜじゃ」
「昨日の顔を覚えるのは無理でも、昨日の約束は覚えていますよ。今度は僕からも質問できる話だった」
「そうじゃったかな。ただ、儂が尋ねた意味はそうではない。そもそも質問するのに資格などいるものか。尋ねたのは、なぜ探偵殿はそうまでして知りたがるのか、という意味じゃ」
「あなたに理由を話すのは、僕の役目じゃありませんよ。写真のフレームアウトしかけた少年は、道一ですね」
「そうじゃだから何だと言うのだ」
 早口になった頭領を遮るように、運転手が小ぶりのワゴンにティーセットを乗せてやってきた。淹れ立ての茶が満たされたピオニーを受け取った。スモーキーな湯気が薄らと鼻腔を湿らせた。
「道一は、僕とはじめて出会ったとき、スコッチの瓶を抱えていました。きっと、この香りを懐かしんだのではないでしょうか」
「すでに、道一と会っていたか」
「道一は、この家で、どう扱われていたのでしょうか。この療養所で、育てられたとでもいうのでしょうか」
「儂と妻でなく、丁玲が育てた。何から何まで、娘が全て面倒を見た」
「面倒を見るには、年齢が若すぎる。ほぼ同年齢だ」
「潔白さを失ったことを隠して生きていくのは性質が悪い。しかし、自分が潔白だと思い込んでいるのは、もっと性質が悪い」
「野卑な説明で分かりづらい。誤魔化しているようにか聞こえませんよ」
「当人達は自覚しておらぬが、傍から見れば飯事遊びじゃ。道一は玩具も同然じゃった」
「そうなると、この療養所はその舞台?」
「道一には過ぎたものじゃ。儂の愛しい娘は、飯事でありながらも、道一を掃き溜めから拾い、清め、救ってやった」
「そんなことを、あなたは認めたのですか」
「儂のような人間は、金には困らないが生きる目的に窮しておる。窮した分だけ生き方が、神がかってくる。世間の視点を失い、言うことも成すことも具体性を欠き、人として相応の殻を剥いでしまう。儂はこう考えた。自然が人々にとって芸術であるのと同じように、道一が娘にとって玩具である。それは何の差し支えもないことだ」
「なるほど確かに神がかっている」
「道一は、黒核子じゃ。つまり、互いに望んだことだった」
「破綻した論理ですよ。詐欺師は捕らえられた後、大概あなたのようなことを言うものです」
「道一に関する一連のこと、罪ではない。娘以外、道一の孤独と向き合い続けるのは、困難だった」
「その原因は、丁玲が道一を育てたからではないのですか。もし、ありのままに道一が育っていても、そうだと言えたのですか」
「探偵殿、頭に瞬く白髪が一筋見えるな。それは時の移ろいを示す証拠じゃ。万物が時の息吹に弄ばれておる。探偵殿の思想や哲学とて、何も例外ではない」
「道一は、最後の手段をもってしても、あなたの言う思想とやらと、この邸の庭からと、本質的には抜け出せなかった」
「最後の手段とは何じゃ、最後の手段とは」
「あなたに、読んで頂きたい手紙があります」
「克昌がようやくその気になったか?」
「もはや誰が誰宛に書いたかなんて、重要ではありませんよ。今、この場で読んで差し上げたいが、一部分が僕では読めない。丁玲に読み上げるよう、あなたからも頼んでもらえないでしょうか」
「そうしよう。今この場に手紙はあるのか」
「すぐ出せますよ」
 それを受けて頭領は運転手を手招くように空をひっかき、二言三言を囁いた。運転手はそれに頷くと部屋を出て行き、観音扉を後ろ手に閉めた。陰鬱に階段を軋ませる靴音が、わたしと老人の耳から遠のいていった。
 わたしは、いつの間にか強く握りしめていた十本の指を一つ一つ解き、シーツの上に手を着いた。家のどこかで滴る漏水を探すようなものだった。ベッドのスプリングに伝わる息づかいなど、まるで感じられない。
「許してもらいたい」と、わたしは思いもよらぬことを言った。しかし言ってから、これまでの道中悩み続けていたのだと、自分でも気がついた。
「ここへは、あなたに伝えようと思うことがあり、やって来ました。しかし、そのことばかり考えていた。それ以外には、考えが及ばなかった」
 老人は、既に目を閉じていた。鼻の下の産毛が、ゆっくりと左右に揺れていた。
「あなたの今の容態など、まるで念頭になかった」
 わたしは、はだけている掛け布団をなおし、老人の顔をのぞき込んだ。
「あなたと話している途中、この手紙を読ませようとしていることさえも、間違いだったのかもしれないと、気がついた」
 運転者が放り出したままにしてあった緑の管を、わたしは手早く整えて棚に収めた。
「でも、あなたが望んでいるものが、かつての子ども達の姿だとすれば、それは全てを知ってもらうより他に道はなさそうです。その上で、尚且つ望む未来を見なくては」
 ラプサンスーチョンを飲み干し、ピオニーをワゴンに下げた。
「この案件、成功報酬はサービスしますよ。詫びだと思って、受け取ってください。あなたからすれば、何の価値もない額かもしれませんが」
 遠巻きに、四人分の靴音があがってきた。わたしは、道一の記した手紙を手元で広げはじめた。

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